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福島地方裁判所 昭和34年(わ)33号 判決

被告人 阿子島礼蔵

大四・一二・二九生 クリーニング業

主文

被告人を懲役二年六月に処する。

未決勾留日数中六十日を右本刑に算入する。

押収にかゝる牛刀一丁(昭和三四年押第一四号の四)はこれを没収する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人はクリーニング業を営んでいる者であるが、昭和三十二年十一月初め同人の先妻の子二人を連れて肩書住居にて木原清子と同棲を始め、昭和三十三年七月同女との間に子をもうけたので正式に婚姻の届出をなしたが同年十月頃から性格の相異並びに被告人の連れ子に対する清子の取扱に不満を感ずるようになつた。偶々同年十二月下旬、宮城県志田郡三本木町三本木字善並田百六十九番地飲食店青柳こと佐々木しげ子方に店員として勤めていた長谷川たつ子(当三十二年)と相識り肉体関係を結ぶ間柄にまでなり、しかも同女が被告人の境遇に深い同情を寄せたので同人のたつ子に対する思慕の念も愈募り、被告人はこゝに将来妻清子と離婚の上は正式にたつ子と婚姻しようと同女に約束するに至り、更に翌三十四年一月二日妻にはたつ子との関係を秘して同女を被告人の経営するクリーニング業の外交員に雇い、自宅に住込ませたが、その後妻清子が被告人の望むように容易に離婚手続に応じてくれないので悲観していたところ昭和三十四年二月十四日夜被告人はたつ子と親しく二人の将来の身の処置について相談したが、夫婦になれる見込も容易にたたないと判断し益々悲観的になつたたつ子から今となつては被告人とは別れることもできないから共に死のうと持ちかけられた為被告人もその気になり、こゝに両名は心中を決意し、死場所を求めて同月十八日福島県福島市土湯温泉町より北方の山中に分け入り同日午後二時頃同市大字佐原字井戸沢地内上名倉共有林内に辿りつき、同所松林の斜面に両名枕を並べて仰向けに横たわるや右たつ子はその着用せる肌着を捲り上げて左乳房下附近を被告人に示しながら「父ちやんこゝだ」と告げ被告人に自己の胸部を突き刺し殺害すべきことを依頼し、被告人は之に応じて直ちに所携の牛刀(昭和三四年押第一四号の四)を右手に持つて同女の心臓部めがけて一回突きさし、因つてその頃同所において同女を心臓刺創にもとずく失血により死亡せしめ、以て同女の嘱託をうけて之を殺害したものである。

(証拠の標目)〈省略〉

(法令の適用)

被告人の判示所為は刑法第二百二条に該当するところ、所定刑中懲役刑を選択し、その刑期範囲内において被告人を懲役二年六月に処し、同法第二十一条により未決勾留日数中六十日を右本刑に算入し、押収にかゝる牛刀一丁(昭和三四年押第一四号証の四)は判示犯行の用に供したもので被告人以外の者に属しないから同法第十九条第一項第二号第二項によりこれを没収することとし、訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項但書を適用することとする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 菅野保之 宮脇辰雄 山下薫)

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